アナログレコードに興味がある方なら、"マト1"とか"マトリックス番号"といった言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか?
当SHOPでも少量ですが中古レコードを扱っていますので、マトリックス番号について簡単に触れておこうと思います。
下部のレコード製作工程を先に読んでいただいた上で記事を読み進めていただきますと、マトリックス番号についてよりわかりやすいと思います。
マトリックス番号ってなに?
レコードの制作工程において、原盤となる”ラッカー・マスター盤”の制作順の番号がマトリックス番号です。
※英語のmatrix(マトリックス)には、母体、鋳物の鋳型、レコードやCDの原盤といった意味があります。
レコードのセンターラベルの外側、ランアウト1と呼ばれる音溝のない円周にうっすらと刻まれています。
A面とB面ではラッカー・マスター盤が異なるので、マトリックス番号もA面とB面で違うことになります。
一番最初の原盤がマトリックス番号の1になり、通称"マト1"と呼ばれています。ファーストプレス、初回盤と言い方もされます。
ラッカー・マスター盤は1枚しか作成できないので、プレス枚数が多くなれば新たにカッティングをしたラッカー・マスター盤を作成し"マト2"、"マト3"〜となっていきます。
一般的には1枚のラッカー・マスター盤から製造できるLPレコードは数万枚とされていますので、ビートルズのようなバンドになれば何回もカッティングが繰り返されマトリックス番号も新たに打ち込まれます。

写真のマトリックス番号は、ビートルズの「ツイスト・アンド・シャウト/ロール・オーバー・ベートーヴェン」の7インチシングル盤(東芝EMI株式会社)の”B面"です。
ランアウトの6時の位置に刻まれた記号は”XEX - 448 - 1”となってなっています。
XEX - 448は原盤番号、1がマトリックス番号となり”マト1”を表しています。ただし、UKオリジナル盤の"マト1”ではなく国内版(日本盤)の”マト1なのが残念なところです。
EMI系のレーベルでは、XEXはモノラル盤に付けられる記号です。(ステレオ盤はYEXです:一番上の写真)

A面のマトリックス番号は”XEX - 422 - 7 - 2”となっていて”マト7”になり、A面は7回目のプレス、B面はファーストプレスとなります。
カッティング〜プレスの製造工程は片面ずつ行われるため、A面とB面でマトリックス番号が異なることがあります。
最初のカッティングに失敗したなど、そもそも"マト1"がないために"マト2"がファーストプレスになるといったこともあるようです。
ランアウトに表記される記号はレコード会社によって異なり、マトリックス番号以外にもカッティングを担当したエンジニアのイニシャルだったり、レコード(原盤)番号、制作工場の刻印、メタル・マザー番号、スタンパー番号、プレス日など、表記するべき決まりがないためさまざまです。
東芝EMIのようにマトリックス番号とプレス日だけのシンプルな刻印もあれば、複数の記号が刻まれているものもあります。

上の写真では、プレス日が刻印されています。2が1972年の2年、9が9月ということを表していて1972年の9月のプレスということになります。
購入者のために表示する目的で刻まれた情報ではありませんが、マニアックなレコードコレクターの方には重要な情報になっています。
参考:Yellow Parlophone Data Base
マトリックス番号が重要な情報である理由
- カッティング(プレスされた時期)によってそのつど音質やミックスが異なる
- カッティングしたエンジニアによっても音質が異なる
- プレス時期によってエンジニアが異なることがあります
- マト番によっては少数しか製造されていない(希少価値)
『ザ・ビートルズ全曲バイブル 公式録音全213曲完全ガイド』からの引用になりますが、マト番によって音質の違いがあることで”マト番”が重要な情報になっています。
『ラバー・ソウル』の”マト1”はポールがベースの音圧を過度に要求したカッティングと言われています。2
『ラバー・ソウル』の初回プレス盤(マトリックス1)は、1965年11月17日にカッティングが行われた。このプレス盤は、全体的にカッティングの溝が深くなっている。そのため、アナログ機器で再生した際に針が飛ぶことを懸念したEMIのプレス工場からクレームがつき、2日後の11月19日に再度クレーム箇所を修正するカッティングが行われた。ただし、このクレームがついた時点で相当数がプレスされており、ごく少数ではあるがマトリックス1の刻印が盤に彫られた初回プレス盤が出荷、販売もされている。この初回プレス盤は「音圧が異なる」「低音がきいている」などさまざまな噂を生むこととなり、現在はレコード・コレクターの間でラウド・カットと呼ばれ、しばしば高値で取引されている。
ザ・ビートルズ全曲バイブル 公式録音全213曲完全ガイド 156項(2009年)
オリジナル盤の”マト1”がいいと言われる理由
- 初回カッティングから起こされた”マト1”がファーストプレス(初回盤)になる
- 初回盤(マト1)はアーティスト、エンジニアなど関係者が最高の音を求めて全力をあげて製作していることが多い
- 2回目以降のカッティングでは初回盤ほど力が入っていないことが多い
もっとも音質の良いとされる"マト1"は?
アナログレコードでにおいては、マトリックス番号や、初盤(オリジナル盤)と再発盤の違いなどによって音質が異なります。
アーティストの本国でプレスされたオリジナル盤3の”マト1”(ファーストプレス)がもっとも音質の良い”マト1”といわれています。ビートルズならUKオリジナル盤の”マト1”ということになります。
レコードによっては"マト1"が存在しないといったこともありますので、できるだけ早い番号のオリジナル盤が音が良いと言われています。
レコードの音源となるマスターテープは、通常本国で制作・保管され、他の国で生産されるにはダビングしたテープが送られるからです。
レコードの製作工程
- マスターテープ(音源)
- ラッカー・マスター盤(溝が凹状の原盤)を1枚作成
- カッティングマシンで音溝を刻み込む(初回カッティング=マト1)
- メタル・マスター盤(溝が凸状の鋳型)を1枚作成
- ラッカー盤にメッキを施し剥離した保存用のマスター盤
- メタル・マザー盤(溝が凹状)を数枚作成
- スタンパー(溝が凸状)をおよそ10数枚作成
- スタンパーで塩化ビニールをプレス
- 1枚のスタンパーからは約1,000枚〜2,000枚がプレスされる
- レコード完成
4.メタル・マザー盤と5.スタンパーの工程を省き、3.メタル・マスター盤から塩化ビニールにダイレクトにプレスするメタルマスター・プレス(DMM)と呼ばれるプレス方法もあります。
マスターテープ
レコーディング音源を録音したマスターテープがレコード製造の元になります。
ラッカー・マスター盤
ラッカーと呼ばれる樹脂をコーティングしたアルミ盤に、カッティングマシンによってマスターテープの音源を音溝の形として刻み込みます。これがラッカー・マスター盤になります。
このラッカー・マスター盤の制作順に応じて原盤の番号とマトリックス番号が刻まれます。
これだけでもレコードとして聴くことはできますが、ラッカー・マスター盤の溝は柔らかいため耐久性に乏しくメタル・マスター盤を作成するためだけに使用されます。
メタル・マスター盤
1枚のラッカー・マスター盤から1枚のメタル・マスター盤を作成します。
ラッカー・マスター盤に銀メッキを施し剥離(電鋳)させて、溝を反転させて凸状になった鋳型がメタル・マスター盤です。
プレス枚数に応じてメタル・マスター盤は劣化していくので、再プレスの際には再カッティッグをして"マト2”、”マト3”〜となっていきます。
メタル・マザー盤
メタル・マスター盤に銀メッキを施し剥離(電鋳)させて、溝を反転させて凹状になった鋳型がメタル・マザー盤です。
メタル・マザー盤が劣化したしたら、メタル・マスター盤から再度新しいメタル・マザー盤を作成します。
1枚のメタル・マスター盤から複数のメタル・マザー盤が作成されます。
スタンパー
メタル・マザー盤に銀メッキを施し剥離(電鋳)させて、溝を反転させて凸状になった鋳型がスタンパーです。
スタンパーが劣化したら、メタル・マザー盤から再度新しいスタンパーを作成します。
メタル・マザー盤から複数のスタンパーが作成されます。
プレス
塩化ビーニルの円盤にスタンパー(凸状)でプレスして、レコード(凹状)が完成します。
1枚のスタンパーからは約1,000枚〜2,000枚がプレスされます。
レコード完成
ミリオンヒットともなれば数枚のラッカー盤が必要になり、スタンパーも何枚も必要になります。
ラッカー盤は同じものは作成できませんので、マト番が違うことによって微妙に音質が違っていることになります。
- ランアウト以外にデッドワックス、テイルオフ、ランオフなどさまざまな呼び名があります。 ↩︎
- 参考:https://www.hifido.co.jp/merumaga/2f/170609/index.html ↩︎
- オリジナル盤とリイシュー盤(再発盤)では、オリジナル盤の方が音質がいいとされています。 ↩︎